花はんめ

  一見奇異なタイトルも「はんめ」が在日コリアンの「おばあちゃん」の意だと知ると、未だ40代の
 金聖雄監督らが人生の大先輩達へ寄せた敬愛の思いが、1時間40分の画面を通して切々と伝わってくる
 だろう。そう、『花はんめ』は在日一世の老女たち、支援する二世三世たち、さらには日本人ボランテ
 ィアも加わる人間参加のドキュメンタリーなのだ。
  京浜工業地帯の一隅・川崎桜本にある小さなアパートで、今日も「花のおばあちゃん」たちが八畳間
 一杯の食卓を囲んでいる。「清水のおねえさん」を中心に、手作りのキムチや炒め物を持ち寄り、メイ
 ンディッシュは白いご飯で副食は果てしないおしゃべり!多い時には15人も集まったこの部屋で語られ
 るのは、拉致問題で揺れる佐渡の炭坑へかつて強制連行された老女も含めて、決して恨みつらみではな
 く、いま、ここの人生の喜びだ。
  すでに70代から80代へ入っている老女たちは撮影の進行につれて、ひとり去りふたり去り、やがて
 「清水のおねえさん」も八畳間の壁際で介護ベッドに寝込むようになるものの、とにかく、いま、ここ
 では元気そのもので、時にプールで水着姿を披露したりする。撮影スタッフも飲み食いをすすめられ、
 戸惑いつつもカメラのこちら側から手を出す時、記録対象に密着しつづけた小川プロさえ超えた。
  圧巻は近在の「ふれあい館」で開かれた集まりに招かれた老女たちが、髪に花を飾って世代も国籍も
 越えた男女に囲まれながら「トラジ」から「アリラン」へと大合唱する時だ。恨(ハン)ではなく人生
 の讃歌を奏でる老女たちの姿は、地元から始まった自主上映のスクリーンで息づきつづけている。

                                (映画評論家・松田政男

映画評論家・松田政男さんの新聞記事より